パーソナル・サステイナビリティ

 

前回の続きです)

 

今回のワークショップのテーマでもある

「リジェネラティブ・リーダーシップ」。

 

まずは、この言葉について少し説明してみます。

 

「リジェネラティブ」というのは日本語で言うと

「再生する」という意味の形容詞なのだけど、

新しいエネルギーや生命力が内側から立ち上がる、

そんなニュアンスを含む言葉です。

 

一見、馴染みの薄い言葉に聞こえるかもしれないけど、

自然界の法則は、リジェネラティブそのもの。

 

森の中では、老いた木が倒れると、葉や枝、太い幹が

年月をかけて土に戻り、森の生態系を支える「土壌」となる。

 

その「土壌」においては、他の微生物や動植物たちに加え、

雨や日光、大気中の二酸化炭素などのダイナミクスによって、

やがてまた新しい木が育ち、森が繁栄を続けていく。

 

すべての生命の「はじめ」と「おわり」を繋ぎ

生命の再生が繰り返し起こる場として存在する「土壌」。

 

そこにあるのは、受容力、変容力、発酵力、

再生力、完璧なペース、自然なタイミングでの循環

自然界の全システムとの繋がり・生かし合い、、、。

 

それはまるで、目立った形で指揮をとる存在がいなくとも、

生態系の繁栄に向かって、その多様性を統合するような、

目には見えない「大いなる力」が存在しているよう。

 

この繊細かつダイナミックな多様性がうごめく「土壌」には

全ての生命の可能性が最大限に生かされ続けるために

絶え間なく、全ての生命たちと交信を続けている

目に見えないリーダー的な力が存在するんだろうか、、、?

 

今回は、多くのリーダーやアクティビスト達とともに、

これからの時代におけるリーダーシップの在り方そのものを、

「リジェネラティブ」というキーワードと共に探究していきました。

 

 

自分自身を「含む」ということ

 

 

さて、Bioneersでも持続可能な世界のための様々な取り組みが

沢山シェアされていたけど、こういった素晴らしい活動を進める

リーダーやアクティビストたちの間では、表舞台での活躍の影で

とある共通のジレンマが生まれやすいという。

 

それは、外の世界のサステイナビリティのために活動する中で、

次第に自分自身(内面)のエネルギーが枯渇してしまって、

活動自体がサステイナブルに続けられなくなる、ということ。

 

この世界の諸問題の大きさを直視して、自分の限界まで

世界のために果敢に行動を続ける人の姿は、本当に尊敬する。

(私はまだそんな挑戦をしたことがない、、、)

 

けれど、よく考えてみると、、、

 

せっかくこの世界を良くしようとして活動していても、

自分が無理をしていて、大きなストレスを感じてしまったり、

身体や心からの声を無視しつづけている場合、そもそも

その人の行動は「全体」のためになっていない。

 

 

なぜなら、、、

 

その人自身も、この世界「全体」の一部であるから。

 

 

ホリスティック(包括的)に世界をよくしようとするためには、

そのなかに「自分自身」をも含んでいないと、

本当の意味での「ホリスティック」になり得ない。

 

 

では、自分自身のサステイナビリティを体現することと

地球規模のサステイナビリティのために活動することを

同時に進めていくには、どうすればいいのか。

 

 

ここで、私の心の残ったのが、エデンのこの言葉。

 

 

「自分の内なる庭に、健全な土壌を育むこと。」

 

 

農作業をしていても、もしも土壌を休ませなければ、

それは枯渇してしまって、作物が育たなくなるように、

私たちにも、「休息」は必要不可欠。

 

そして、コンポスト(堆肥)が土壌に加えられることで、

また次の生命がそこから生き生きと育まれるように、

私たち自身も、セルフケアを通して心身に滋養を与えることで、

レジリエンスが育まれ、活動自体も継続できるようになる。

 

 

大切なのは、何をやるかだけでなく、どのようにやるか、

という、「プロセス」そのものの視点。

 

 

・パーソナルサステイナビリティとは、私にとって何を意味するか?

 

・自分のライフスタイルの中で、サステイナブルな部分、

そうでない部分(とそれを正当化しようとする意見)は何か?

 

・人生で一番大事だと思うものは?

 

 

こういったことを深く掘り下げながら、クラスでは、

以下のような具体的な切り口から、日常における

「時間とエネルギー使い方」と「セルフケア」について

一人一人が向き合っていきました。

 

 

「時間が足りない」のストーリー 

 

 

「できるだけ詰め込んでやろう」

「急げ! 」

「時間がある時にね」

「やることが多過ぎる」

「最近、遅れをとっている」

「ちょこっとかじってみるわ」

 

こう言った言葉はどれも、私たちが「時間が足りない」という

ストーリーに陥っているときに、よく使うもの。

 

よりよい地球や社会の未来をつくるための活動においては、

生き方と結びついた長期的なビジョンをもって

継続していくものが多い一方で、目先のプロジェクトに集中する中で

いつしか短期的な達成感や生産性などに焦点を当ててしまったり、

身体が疲れても、夜遅くまで働き続けてしまうことも。

 

まずは、自分が仕事やプロジェクトをしていく上で、

時間とどのような関係性をもっているか、見ていきました。

 

・自分にとって最適なペースで仕事をしたり生活しているか? 

・「時間が足りない」という状況にどのくらい陥っているか? 

・どのくらいの頻度で、自分を急かしたり、マルチタスクしているか?

・どんなときに何をすることで時間を「浪費」しているか?

・どういったサイン(からだ、心)が時間的なストレスを教えてくれるか?  

・どのくらいの頻度で、時間の制約から離れてリラックスしているか? 

 

「時間が足りない」の物語に陥っていると気づいた時、

自分の身体、感覚、心、行動はどう影響されているか、

マインドフルに注意を向けていきました。 

 

 

限りある「リソース(資源)」の使い方に気づくこと

 

 

家の電気を効率よく使ったり、地球資源を大切にするのと同じように、

自分の人生における仕事や役割をこなしていくことにおいても、

有限なリソース(時間、体力、集中力、思考力、、)を大事にすることは

自身の内なるサステイナビリティを保つ上では、重要な鍵の一つ。

 

「自分のリソースの大部分は、一体どこに向かっているのか?」

 

何にエネルギーを費やす(費やさない)かの意図を持つことは、

人生で大事にしたいことの「優先順位」を意識することにも繋がります。

 

 

ここでは、以下のやり方で、自分のリソースの使い方を

可視化していきました。

 

まず、用紙に円を書き、その縁に、自分が担っている

家族の中での役割、仲間やコミュニティ内での役割、

仕事やプロジェクトにおける役割、趣味のサークルでの役割、、、

などのあらゆるポジションを加えていきます。

 

そして、それぞれのポジションにおいて

どれ程のリソースを費やしているかを、円の中心から

外側に向かって、円グラフで描いていきます。

 

*このとき、リソース別に色分けして描くと

時間、体力、思考力、集中力、、、などの各要素を

さらに見やすくなると思います。(わたし流)

 

その上で、本当はどこにもっとリソースを注ぎたいのか、

どこにリソースをかけ過ぎているかなどを、

人生全体のバランスという視点から見ていきます。

 

 

 

アンバランスのサインに気付くこと

 

 

普段、地域社会のため、地球のためにと情熱的に活動する一方で、

複雑に絡み合う問題や、改善されない状況を目の当たりにし、

休むことも忘れて活動にのめり込んでしまったり、

燃え尽きて鬱っぽくなることも、実はよくあること。

 

自分が枯渇せず、サステイナブルに活動するためには、

「活動のしすぎでバランスを崩してしまっている」という

自分なりの「最初のサイン」に気づくことが第一歩。

 

ワークショップでは、各自、自分が思い起こす

アンバランスなサインをシェアし合いました。

 

(例)

・身体からの「休め」のフィードバックが聞こえないとき

・家族や大切な人にフラストレーションをぶつけてしまうとき

・「やることリスト」の奴隷になっているような感じ

・夜もリラックスできないほど神経が興奮しているとき

・ストレスから暴飲暴食になってしまうとき

・時間管理ができず、いつもギリギリになっているとき

・何かに依存的になってしまうとき(お酒、ドラッグ、etc)

 

 

こうして自分のパターンを意識化していくことで、

活動のゴールそのものだけに囚われるのではなく、

プロセス自体を大切にし、自分の内側からのフィードバックに

耳を傾けることが大切だということに気づいていきました。

 

 

セルフケアの方法を知る

 

 

自分の内なるサステイナビリティを支えるためには

普段のエネルギーと時間の使い方を知るだけでなく

自分自身をいたわること(セルフケア)もとても大切。

 

セルフケアといっても、一人でやらないといけないわけではなく、

自分の心身を養うものであれば、基本的には何でもOK。

 

以下、例を挙げてみます。

 

<「静けさ」の感覚とともにある>

・静寂の中にいる時間をつくること

・静けさを思い出させてくれる景色や人たちと過ごすこと

・定期的に自然の中に身を置くこと

・シンプルな生活を心がけること

 

<身体とこころのケア>

・瞑想、ヨガ、マッサージなどで、心身のケアをすること

・食事に意識を向けること

 

<他の人との関係性>

・有害な人間関係やアクティビティから離れること

・仲間たちと互いに弱さを見せることを許し、親密さを培うこと 

・噂やドラマを手放すこと

 

<時間の使い方>

・スケジュールの合間に空白を入れること 

・メディアから定期的に離れること 

 

<エンパワメント(自分を力付けること)>

・感謝すること

・自分を褒めること

・ちょっとしたことをお祝いすること

 

↑ 特にこれらの <エンパワメント>を継続することは、

心の庭にコンポスト(堆肥)を与え続けるようなもの。

 

こういったそれぞれの要素が、今どれだけ満たされているか

また円グラフにして可視化していきます。

 

エデン曰く、セルフケアの最もシンプルな形は、瞑想すること。

 

マインドフル瞑想することは、今やっていることを一旦止めて

「今ここ」で、自分自身に注意を向けるという慈愛のギフト。

 

そうすることで、深いレベルでエネルギーの回復が起こるのだ、と。

 

 

リーダーの「あり方」

 

 

ニーナ曰く、ペルーのある先住民の部族においては、

リーダーを決める際、自然界や宇宙からのガイダンス(導き)を

しっかりと受け取れる人、という点が重視されるのだそう。

 

そのようなリーダーの中にある大切な資質というのはおそらく、

「自然界の大いなる<時間の流れ>を汲みとれる感覚」だったり

「全ての生命の中で生かされている感覚」な気がします。

 

私が思うに、リジェネラティブなリーダーというのは、

目に見えやすい活動そのものや、短期的な社会へのインパクトよりも、

長期的な視点で、土壌レベルで、人との繋がりや変容力を育み

新しい現実がこの世に立ち昇る場をしっかりとホールドできる人。

 

そして、関わる人の中に湧き上がる自主性(リーダー性)を

縁の下で支えることのできる人。

 

一部の人々を中心に、社会に良い変化が起きつつある時、

リーダーの役割は、この変化を社会のメインストリームにまで

時間をかけて、押し上げることでもあるんじゃないかな。

 

もちろん、新しいやり方や構造的な変化、人々の行動の変化に

抵抗する人たちもたくさんいる中で、リーダーとして、

自分の信念やビジョンを、勇気を持って表明し続けることは

理解されない痛みも、時として起こりうるもの。

 

また、あらゆる生命のつながりを意識しているリーダーだからこそ

諸問題から生じる他の人たちの痛みを、自分事として捉える中で

どうしても、その痛みの大きさ、重さ、根深さなどによって、

自身の心が折れそうになる状況になってしまうこともある。

 

だからこそ、普段から心の土壌に滋養を与え続けて、

世界への「痛み」のさらに奥にある、世界への「愛」を感じとり

そこを起点に、再び活動できるエネルギーを生み続けることが

大切なのだということに、あらためて気づきました。

 

 

 

「There is peace with sacrifice in leader’s heart.

(リーダーの心には、苦しみと共に平和がある) - ニーナ」

 

 

 

(つづく)